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映画「Black Box Diaries」
に関する伊藤詩織さんの声明

伊藤詩織 記者会見 声明


今日お集まりくださった記者のみなさまへ


本日はお集まりいただき、ありがとうございます。せっかくの機会にもかかわらず、体調不良によるドクターストップで出席できなくなってしまいました。申し訳ございません。
会場でお話する予定であった、私が映画を制作するに至った経緯を、この機会にご説明させていただきます。加えて、制作の過程でご迷惑をおかけした関係者の方々への謝罪と共に、その後の対応についてご説明させていただきます。

 

「Black Box Diaries」を作成した理由

 

今回、私が9年かけて制作したドキュメンタリー、「Black Box Diaries」 がアメリカのオスカーにノミネートされました。この映画は、私のレイプ被害そのものを描いた作品ではありません。私がこの映画の中で伝えたかったことは、その後の社会の話です。

 

被害直後に警察が被害届をなかなか受け取ってくれなかったこと。

「このようなことはよくあることだから忘れなさい」と捜査員に言われ続けても、「削除される前に防犯カメラを確認したい」と必死に訴え、性被害を受けたホテルに震える足で行ったこと。

全く記憶のない自分の姿が人形のように防犯カメラ映像として写っていたこと。

防犯カメラの映像を見て「犯罪性がある」と言われてやっと捜査が動き始めたこと、しかし相手がTBSワシントン支局長だとわかった途端、警察から「君の人生が水の泡になるからやめたほうがいい」と言われたこと。

等身大の人形と床の上で性被害の再現をさせられ、その姿を、数名の男性捜査員によって写真に収められたこと。

仕事を休職せざるをえなかったこと。

やっとの思いで捜査が進展したのにもかかわらず、その後逮捕直前の現場、成田空港で警視庁刑事部長からストップがかかってしまったこと。
110年もの間変わらなかった刑法への思いを胸に、変化を望んで再捜査をお願いし、被害を公にしたこと。
家族からは、被害を公表することを猛反対されたため、最初は苗字を伏せて会見を行ったこと。
しかし、すぐにネットで苗字が特定され、誹謗中傷や脅迫を受け、日本に住めなくなってしまい、ロンドンに移り住んだこと。
ロンドンで映画制作の仲間と出会い、日本に帰国して撮影を続けたこと。


私の人生を大きく変えたあの1日から10年がたち、刑法も変わりました。
#metoo運動が世界で起き、日本でも性犯罪の報道のされ方が変わってきました。
もしも最初から被害届が受理され、捜査が真っ当にされていたら。もしも警視庁刑事部長が理由なしに逮捕をストップしていなかったら。
もしも被害者としてここまで声をあげることの苦しみを知らなかったら。
私はこの映画を作っていなかったと思います。
社会や法がどれほど、性被害サバイバーに寄り添うかで、サバイバーのその後の回復のスピードは大きく変わってきます。
性暴力は「被害者」個人の問題ではなく、「社会」の問題なのだと心から感じました。


この10年間、私はトラウマと共に生きてきました。そして学んだことはトラウマと誹謗中傷は、最悪の組み合わせだということです。
どんなに心ない言葉の石を投げられても、私自身が公で泣いたり、苦しい姿を見せたら、他のサバイバーにとって悪影響になってしまうと、自分を奮い立たせていました。
それでも限界を感じ、自らの命を終わらせようと、行動を起こしました。
映画には、その全てが描かれています。
病院で目覚めた時、私はすぐに携帯で病院の天井を探すように撮影を始めていたようです。意識が朦朧としていたので、撮影したこと自体覚えていません。
この映像は編集が始まって一年後に、編集者によって私の携帯から見つけ出されました。
これらの映像は、私が映画に本当は入れたくなかったものの一つです。反対しながらも応援してくれた母、そして父には見せたくなかった。サバイバーとしても入れたくなかったのです。
何よりジャーナリストでもある私は、一方的に私の主観だけで映画を作ることに何度も躊躇しました。
しかし、この病院の映像を見た瞬間、私はこの映画の監督として、映画を完成させるまでは生き延びることを、自分自身に約束しました。
どれだけ苦しくて終わりにしたくても、本当は生きて伝えたかったんだ、と確信できたからです。

 


謝罪と、今後の対応


証拠集めの過程のなかでリスクを冒してまで証言してくださった、タクシードライバーさんドアマンさんには心から感謝しています。彼らは私にとってヒーローです。
映画には当初、ドアマンの証言を直接聞けた直後に連絡した、西廣弁護士との電話の「ホテルが止めに入るかもしれない」というアドバイスの音声が入って
いました。ご本人への確認が抜け落ちたまま使用し、傷つけてしまったこと、心からお詫び申し上げます。
また、映像を使うことへの承諾が抜け落ちてしまった方々に、心よりお詫びします。最新バージョンでは、個人が特定できないようにすべて対処します。今後の海外での上映についても、差し替えなどできる限り対応します。
そして多くの助言をいただいた支援者の方に、心より感謝します。「適切な対応をした上で、映画を公開してほしい」という声は、大事な支えになりました。


監視カメラの映像使用について


ホテルの防犯カメラは、私の受けた性犯罪を、唯一、視覚的に証明してくれたものです。この映像があったからこそ、警察も動いてくれました。
映画への使用について、ホテルからの承諾は得られませんでした。そのため映画では、外装、内装、タクシーの形などを変えて使用しています。
しかし加害者の山口氏と私の動きは一切変えることはできませんでした。それは事実を捻じ曲げる行為だからです。
これに対してはさまざまな批判があって当然だと思います。それでも私は、公益性を重視し、この映画で使用することを決めました。
そこに確かに、性加害の経緯が映った映像がある。それをみずに、性被害を否定する誹謗中傷が、社会に飛び交っている。手元にある映像をどうしたらいいのか、何年も悩みました。でも、ブラックボックスにされた性加害の実態を伝えるためには、この映像がどうしても必要だったのです。


メッセージ


この映画を通してさまざまな観客の方々と出会いました。どんなに日本より刑法が進んでいる国でも、ほとんど皆が、社会やコミュニティーの中で同じ苦しみを抱えているのだと実感しました。
この映画が光を当てているのは、性暴力と権力というテーマです。このテーマは、誰もが目を向けたいものではありません。
最後に。私が願うのは、みなさんにこの映画を見ていただき、議論してほしいということ。この映画は、私にとって日本へのラブレターなのです。


ありがとうございました。


2025年2月20日
伊藤詩織


追加の資料

​※ 2024/07/09の報告会でお伝えしたように、当サイトの管理は、啓発を目的とする後継団体KnoCsに委ねられました。2024年の年末に、KnoCs、Open the Black Box 双方のメンバーが参加した合議により、声明の掲載について合意が形成され、掲載することが可決されました。この事実に基づいて、本声明を掲載します。
なお、掲載の期間は、現時点では決まっていません。

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